最上町の堺田分水嶺を訪ねる
この話は、かれこれ十年程前に山形県天童市在住の頃のことである。分水嶺と聞くと、山脈の背骨(尾根)になる場所と考えるのが普通である。言葉通りに水を分ける嶺と思われるので、標高が高い山脈の背骨(尾根)付近だとずーっと思っていた。そこに降った雨がその尾根で分かれて、片方は太平洋側に、もう一方は日本海側に流れていくのだと思っていた。分水嶺が雨や地下水になり湧き出てきた水の行き先を決めているのである。
◎堺田分水嶺 その1



仙山線で仙台から天童の職場に通っていた時、仙山線の脇を流れる川がどちらに流れていくかいつも観察していた記憶がある。その川の流れを見ると、分水嶺で分けられた雨水や湧き出てきた地下水が、太平洋と日本海に流れていくのを想像しながら、河川の地理的な条件や分水嶺を越えたのだろうなどと思いを巡らしていたのだった。
山というと、日本人はすぐに富士山を思い浮かべる。そのくらい富士山は日本人にとって、サクラと共に日本の象徴と考えられている存在である。ある時私が尊敬している高橋金三郎さんが、富士山は山ではないと話していたのを覚えている。その時はなぜ山ではないのかと疑問に思ったのだった。でも色々と学んで行くうちに、山の存在を考える時、気象条件や気候の変化をもたらすのは山の連なりである山脈の働きであると考えられるようになってきた。その中の一つとして雨水や地下水が、太平洋側か日本海側かのどちらに流れ込むか理解できるのである。富士山のような単一の山では、こうした気象や気候および水の様子の変化には影響しないのである。
山脈について学んできた一つのきかっけは、小学校の四年生の「上水道」のテキスト開発を行ってきた時だった。その当時、NHKでは黄河の水源を探し求めるドキュメントを何回かにわたって放映していた。水源地を求めることで何が得られるのかと疑問に思ったのだった。ところが仙台市民の生活に必要な水は、奥羽山脈によって分けられる地域に降った降水量によって、水源量の確保が決まるのである。夏の渇水が多少あっても、この広い範囲ならば給水制限はしなくて済むだろうと考えることができるようになったのである。
◎堺田分水嶺 その2



ある時、勤務先の短大の図書館司書の高橋明子さんと分水嶺の話をしていた時、国道四十七号線の県境にある堺田分水嶺があると話してくれた。そこの分水嶺は山脈ではなく、普通の平地で小さい川が右に行けば太平洋に、東に行けば日本海に至る分水嶺だと話してくれた。その分水嶺の話は、これまでの私が持っている分水嶺についての考えとは、全く異なる分水嶺だったのである。そして彼女は最近そこまで行ってきたという話だった。そこで凡その話を聞いてから、私もその堺田分水嶺に行かない訳にはいかないだろうと判断していくことに決めたのだった。
五月十日に百十三号線を天童から北上して舟形まで行き、そこから小国川沿いに行って、国道四十七号線を東に向かった。瀬見温泉を通り、陸羽東線の赤倉温泉駅を通過すると堺田分水嶺に着いた。
ここは標高が三百三十八メートルであり、平坦な台地上という感じである。すぐ下に陸羽東線の堺田駅があり、すぐに来られるような場所である。そこに小川と言っていい程の川が流れていて、一か所に分かれている場所があり、そこに水がそれぞれ流れ込んでいくのが見られる。どこにもある田んぼの畔脇の小川という風情だった。そこが太平洋と日本海に分かれる分水嶺というのだから驚くのである。
◎分水嶺の堺田分水嶺の掲示板



その前の掲示板には、次のようなことが記されていた。「最上町堺田地区分水嶺から海に至る河川ルート」として、「太平洋側には、大谷川支流(十キロ)、大谷川(十・三キロ)、江合川(八十四・八キロ)、旧北上川(二十・一キロ)で累計百十八・二キロ」「日本海側には、芦ヶ沢川(一・四キロ)、明神川(五・四キロ)、最上小国川(三十四・四キロ)、最上川(六十一・四キロ)で累計百二・六キロ」と示されている。ここで降った雨は、太平洋と日本海のどちらにも流れていくのである。何か不思議な感じがしてしまった。
この堺田分水嶺は宮城との県境にあるので、少し東に行くと鳴子温泉郷に行ける場所である。県境というからには、標高も高くなって雨などを分ける尾根になっている筈だと思って、日本地図で調べてみた。ここは奥羽山脈の連なりの一部になっている。しかし堺田分水嶺近くには北に小柴山(千五十六メートル)があり、南には赤倉温泉の東側にも山がある。奥羽山(七百六十五・八メートル)などを含む周辺の降水が堺田分水嶺に集まってきているのではないかと思われる。
◎堺田分水嶺 その3



その奥羽山脈は、新庄市の東側で堺田分水嶺よりは高く山々が連なっている。火打岳(1238メートル)や八森山(1098メートル)などが瀬見温泉の近くの山々である。日本海側に抜ける雨水は、最上小国川を流れて、これらの山間を通って新庄を抜けて最上川に入り込んでいくのだろう。ただこの堺田分水嶺は、平地と見紛うような場所にあることと県境であることで、より一層人々の興味関心を呼び起こしていると思われるのである。
ところで山形県内には、県内で川の流れを分かつ分水嶺がいくつもあると予想されるが、その多くは高い山脈を境にして流れる方向を異なるようになっているのではないかと考えられるのである。
因みに分水嶺について調べていたら、岐阜県でも堺田分水嶺のような平地で水が分かれる場所があることを知った。「岐阜の旅ガイド」には「ひるがの高原は標高875mで、大日ヶ岳から流れてきた水はここを分水嶺として太平洋側と日本海側に分かれて流れていきます。分水嶺公園は水が分かれる様子が一目で分かるように、整備された公園で、国道156号線に面しています。春にはカタクリやミズバショウ、梅雨時にはササユリなどの山野草も見られます。秋の紅葉も見事です。」と記されている。
余談になるが、この堺田分水嶺を見に行った時、テレビ番組の撮影のために亡くなった渡辺徹(榊原郁恵の夫)がスタッフと一緒に来ていた。その分水嶺の付近をビデオカメラで撮影している場面を見かけたのだった。
長い間私は「分水嶺は高い山脈の尾根だ」」という規則を作っていたのだが、堺田分水嶺だけでなく、平地上になっている、ひるがの高原公園もあることを知って、規則通りではない分水嶺を知ることになった。自分の認識を変えることができたことが、とても嬉しかったのである。
