秋にキタキチョウが集団吸水している理由がまだ分からない!
毎年秋の10月頃になると、農道や田んぼの泥土の上で、キタキチョウが集団吸水しているのを見かけます。多い時には20匹位が1か所に集まっているのではないかと思われます。しかも全て翅の色からするとオスだけです。他からその場所に飛んで来くる個体も見かけます。
◎集団給水するキタキチョウ



私が農道を歩いていくと、ぱっと多くのキタキチョウが飛び立っていきます。集団吸水していた場所だったのです。近くで観察していると、少しずつ元の場所に戻って来ます。その光景を見ると、なぜこの時期に、キタキチョウが集団吸水するのか不思議になるのです。
この集団吸水は、10月頃に定点観測地の永和の雑木林付近でも、南濃町津屋の水辺付近でも、長良川の土手下の叢付近でも、そして山形の高瀬付近の堆肥が積んであるところでも見かけました。どうもある地域に限定されたキタキチョウの行動ではないようです。キタキチョウの行動として、10月頃に棲息場所で一般的に見られる行動と考えられます。
◎コセンダングサの蜜を吸うキタキチョウ


集団吸水とは、水分を体内に取り入れるということですが、真夏の暑い日ならこうした行動は合点がいくのです。アオスジアゲハやアゲハチョウは湿った地面に降りて、吸水しているのを見かけます。体の体温を冷やしたり、水分補給のためだと思われるからです。でもその時期にキタキチョウが地面に降りて吸水しているのを見かけたことはありません。
このキタキチョウが10月に地面で集団吸水することについて、いくつかの疑問が湧いてくるのです。その一つ目は、なぜこの時期にオスだけが地面に降りて集団吸水するのかということです。
この集団吸水している場所を観察していると、ただの地面というよりは、泥土だったり、有機物があるような場所が多いようです。先日永和の農道に集まっていた場所は、ゴイサギの幼鳥がイタチの餌食になって羽と嘴などが残っている場所で、血液などが地面に沁み込んでいると思われる場所でした。また木曽川では獣糞にキタキチョウが来ていました。これらの様子から、単なる吸水のためでなく、泥などに含まれる有機物や無機物などを吸収するためにやって来るのではないかと思われるのです。
◎左 狸の溜め糞にきたキタキチョウ 右 牛のたい肥に集まるキタキチョウ


なぜ他の季節でも必要の筈なのに、この季節だけにオスが集団吸水するのか。これを考えるヒントになるのが、アサギマダラがフジバカマの花に集まるのは、精子形成のために必要な成分を吸収するためといわれています。この行動をキタキチョウのオスの行動に当てはめると、精子形成に必要な成分を得るために集まってくるのではないかというアナロジーができそうです。
他の季節でも有機物や無機物がありそうな地面に降り立って吸水しても良さそうなのに、そのような光景を見たことがないのです。そうだとすると、この秋の季節にしか吸水しなければならない事情がある筈です。それはなんなのでしょうか。
その理由は私にははっきりと分かっていないのです。でもこの時期に精子形成に必要な成分を摂るとき、それはキタキチョウの個体維持や子孫である卵・幼虫・成虫に関わる種族維持に関わる問題に違いないと思われます。
キタテハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミなどと同じように、キタキチョウは成虫で冬を越すと言われています。冬を越すキタキチョウの多くは、10月中に成虫になっているものか、この時期に交尾して産卵・幼虫・羽化する過程を12月頃までに経たものかの可能性があります。観察していると10月の集団吸水しているキタキチョウの成虫の翅は、とても綺麗で破損しているものは余り見かけません。そのことから集団吸水する時期の直前に羽化したのではないかと思われます。ちょうどこの頃には、叢の端にコセンダングサの黄色い花が沢山咲いています。キタキチョウはその花の蜜を吸っていることが多く、コセンダングサとキタキチョウには親和性が高いと思ってしまいます。
この翅の綺麗さから考えると、これらのキタキチョウは羽化したばかりで、それが成虫のまま冬を越すのではないかと思われてならないのです。キタキチョウが有機物や無機物を吸水するのは、アサギマダラのように温暖な地域に移動して、交尾し産卵するという状況とは違っていて、同じ場所で冬を越すわけですから、アサギマダラのフジバカマの蜜を吸うのは精子形成のためという考え方は、キタキチョウでは当てはまらない可能性があります。
そう考えると、このキタキチョウの集団吸水は、羽化したばかりで花の種類も少なく、個体維持に必要な成分を十分摂ることができない無機質や有機物の成分を補給しているのではないかという予想も考えられるのです。ただ個体維持に必要な成分を得るための吸水なら、メスも含まれていなければならないと思うのですが、集まっているのはいつもオスだけなのです。そこが分からないのです。
また二つ目の問題は、同じ場所にオスが集まって集団吸水しているのですが、なぜ同じ場所に集まるのかということです。有機物や無機物がある場所は、いたる所にあるのですが、その際それぞれのキタキチョウが三々五々に地面に降りて吸水するのではなく、一か所に集まる場合が殆どです。なぜそんなことが起こるのか、とても不思議です。
トンボの場合には、羽化して間もない未成熟のトンボは、ウスバキトンボやコシアキトンボなどでは、同じ空間を群飛する習性があります。成熟して来ると、水辺に移動して縄張りを作ります。このキタキチョウの場合には、なぜ集まってくるのでしょうか。
アドルフ・ポルトマンのいうように、哺乳動物には離巣性と就巣性の動物がいると言われています。ウマやシカなどは生まれてすぐ赤ん坊は立ち上がって歩くようになります。これが離巣性です。それに対して、ネズミやヌートリアなどは就巣性なのでくっつき合っています。この就巣性の特徴の動物は、相手との密着することで安心感を得ることと、相手の体臭が安心を与える可能性があるのです。こうした生得的に備わった行動特性(習性)でキタキチョウは集まって来るのでしょうか。
集まって来るキタキチョウは羽化したばかりの成虫で、冬を越すために必要な成分を補給するために同じ場所に集まってくるのには、来るためのサインなどがなければなりません。アリなどの仲間同士の交信は体から出すホルモンのであるフェロモンによると言われています。同じようにキタキチョウで吸水をしなければならない未成熟な成虫がフェロモンを出していて、その匂いに惹かれて他のチョウが集まってくるのではないかと思われます。無機質や有機物を吸収すると、そのフェロモンの発生が消えてなくなることも考えられます。
ただ、オスばかりがこうした無機質や有機物を必要にするのに、メスは必要ないというのには、人間の原型はメス(女性)で、オスはその変更によるものと同様にアナロジーすることができるかも知れません。厳しい環境下でも、メスは生き残る可能性が生物的に高いのに対し、オスには体の設計図の複雑な変更で環境適応性のレベルが劣っているのではないかと考えられます。オスは来たるべき越冬という厳しい環境に耐えるために、体を維持するために必要な無機質や有機物を得るのではないかと考えることができます。
キタキチョウはもともと南の地方に棲息していたチョウだと考えられています。それが北上してきたので、それまでの発生や羽化のサイクルが狂ってきたと思われるのです。そこでモンシロチョウやモンキチョウのように、冬を卵や蛹で越冬することができずに、成虫のまま越冬せざるを得なくなっていると考えられます。そこで仕方なく、その寒い冬の環境下でもオスが越冬するための体作りのために、こうした集団吸水をして無機質や有機物を摂取しているのではないかと予想することもできるのです。
これは、私が考えたキタキチョウの集団吸水についての一種の妄想でしかありません。今のところその行動を説明している考え方を見かけていないのです。皆さんは、キタキチョウのオスの集団吸水をどう考えるでしょうか。

